2015/12/12

Yuko

Yukoさんは世界銀行グループ内部監査局における戦略業務部長を務めています。ナバーラ大学(スペイン)でMBA、SAISでMIPPを修了しました。今回はシニアの視点からのキャリアなどについて語って頂きました。
世銀にて同僚と内部監査協会の幹部と。

簡単に経歴を教えて下さい。

大学では社会学を学んでいました。これには高校で学んだ政治経済の先生の影響が強かったと思います。日本は高度経済成長の真っ只中にあり、様々な社会問題に直面していた頃です。水俣病など公害もまだ過去のものではありませんでした。社会がどう動いて、どう進化してゆくのかに興味があり、ジャーナリスト志望の学生でした。

その後、就職した先は証券会社でした。男女雇用機会均等法が成立したちょうどその頃で、総合職として働き始めました。広報の仕事をした後、手を挙げてナバーラ大学でMBAを取りました。多くの人は米国の大学院に行ったのですが、私は違ったことをして、ヨーロッパに行ってみたいと。帰ってから、中南米の政府などの債券発行に関わる仕事を始めました。それまでの暗黒の時代が終わり、民主化なども進んで来たところでしたね。そこでまた、こうした債券で調達された資金はどのように使われているんだろう、どのようにそれらの国の経済発展に寄与しているのだろう、と気になり始めました。出張の帰りにワシントンに寄って、調べ物をしたり、人と会ったりしているうちに、きっかけがあり、アジアの金融セクターについてわかる人を探していたIFCに移ることになりました。

SAISで学んだのはそのときです。IFCでTransactionを回している中で、もっとそのコンテクストを理解したいという欲求が湧いてきました。なぜ、自分たちの業務が必要とされているのだろう、という根本的な質問に対する答えを求めていたんです。SAISでは夜間学生としてMIPPを取りました。その後、米州開発銀行のIICへ移りました。これは子供が出来たこともあって、距離的に近い中南米の担当をした方が負担が少ないという考えもありました。そこでも投資案件をこなしていたのですが、そうしたTransactionを毎回経験する中で、その中のどの部分に最も関心があるか、ということを考えるようになりました。私の場合は企業統治や内部統制といったところでした。企業や組織がどのように意思決定をしてどのような仕組みで動いているかということを考えることは投資案件を検討する中でしていましたが、そういう点をもっと深く調べられる仕事がないかなと機会を探すようになりました。

IICに移って4年ほど経った頃、世銀の内部監査の部門で募集があり、自分の興味に近い仕事ではないかと応募し、また世銀グループに戻ってきました。それからスリランカに滞在した時期を除いて、内部監査部門で働いてきました。スリランカはパートナーが現地オフィスに赴任することになったことによるもので、滞在中は会計会社のリスクコンサルティング部門で働いていました。これは現地採用で、駐在員のようなプロテクションも無く、現地の同僚と、現地の給与で働いたものです。トゥクトゥクでお客さんに会いに行ったりもしましたよ。非常に良い経験でした。内戦が激しくなって、予定を切り上げて帰ってこなければなりませんでしたが。

これまでのキャリアの中で、重要だと思っていることは何ですか?

まず、自分の原点をしっかりと見定めることです。自分の根源的な疑問を持ち続けて下さい。そうすると、自ずと切り捨てられるもの、切り捨ててはいけないものが明確になります。その上で、自分の視点をしっかりと持って下さい。「なぜ?」と常に考え続けるんです。そして、論理的に自分の考えをまとめ、発信する力は大切です。縮こまっていないで、自信を持って、自分を打ち出してゆくのには訓練も役立ちます。例えば私はToastmastersなんかにも参加していました。

それから、自分の強みを見極めて下さい。私は、筋道を立てて考えること、複数のことを繋げて考えることは得意で、これは当たり前のように聞こえるけれど、出来る人はそんなに多くないんです。あと、キャリアを直線的に考えないことも大切です。いろんなことが、コントロールできない出来事が人生には起こります。そんな中でも、自分が何をしたいのかが分かっていれば、Opportunityは見えてきます。私は今、世銀にいますが、世銀にいたいからいるわけではなく、自分のやりたいことを求めて、ここにいます。硬直的に考えず、自分が大切だと思うものを追求していって下さい。

最後に、可能性を信じて下さい。往々にして自分の可能性を制限しているのは自分自身だったりします。まずやってみることが大事です。

マネジメントの立場から、若手にどのようなものを求めていますか?

我々が考えている方向や優先順位をしっかりと理解して、指示がなくとも動いて下さい。アドバイスやフィードバックがあれば、それを深く理解して、それを単に打ち返すだけではなく、それ以上のものを出して来て下さい。新しい視点やアイデアを提供し、本質的な質問をして下さい。常に次の一手を考え、先回りして下さい。そんな風に、マネジメントの考えることを予測して動く練習というのは、自分のマネジメント能力を培うのにも役立ちます。

ネットワーキングの肝というのはあるのでしょうか。

アライアンスを作ってゆくということが重要だと思います。どんな立場にあっても、自分のやりたいことを自分だけで実現することは大変です。まず、人の教えを積極的に請うことから始められると思います。世銀の人なんかはみんな教えたがりですからね、これまで私が頼んで断られたことはありません。それをしっかり消化した上で、しかし同じではない自分なりの考えを持つことが大切だと思います。それから、他の人たちのそれぞれの動機を理解して、彼らにとって役立つアイデアを還元してゆくことです。こんな形でGive & Takeの建設的な関係を作ってゆくことが出来ると思います。

女性としてキャリアを形成する上で心がけたことはありますか?

まず、こちらではキャリアにおける女性に対する差別はありません。日本では何かにつけて「女性だから...」という言葉が出てきましたが、こちらに来て、やっと普通の人間になれた、と感じました。

キャリアは長期で考えるのが重要だと思います。人生には色々なイベントがあります。結婚、出産、育児。近視眼的にキャリアを考えていると、破綻してしまうこともあるかも知れません。そこはリラックスして、長期的に歩んでゆきたい道を考えてゆくようにしてきました。自分なりのバランス感覚も大切です。継続できるモデルを作らないといけません。パートナーと協力して、役割分担して、アウトソースして。割り切りも必要です。日本の世間一般の母親がしてあげていることを子供に対してしていないと、自分はダメな母親じゃないか、なんて悩んでしまうこともあるかも知れませんが、自分のバランス感覚を持って進んでゆけば良いのだと思います。もちろん、色々なことをこなさなければいけないので、効率を追求して、常にインプットとアウトプットを考えてはいます。キャリアをしっかりマネージする母親像を子供に見せることは良いことだとも信じています。

これから留学など海外へ出てゆこうとする若い世代に一言お願いします。

留学して違う視点を学ぶということに重点をおいて、その留学の期間を過ごしたり、留学準備を進めたりして下さい。日本人留学生の中で固まってしまって、学んでいる場所が外国に移っただけで、日本で勉強しているのと同じになってしまっては元も子もありません。その後何をするにしても、新しい視野や視点を得る、新しい考え方、今まで知らなかった現実に触れるということが出来れば、外国で学んだ価値はあるのだと思います。

スペインでは、学んでいる学生にはヨーロッパ人が多かったんです。北米からの学生もいましたが、やはり欧州の人たちが多く、ラテンアメリカの人々なども多くいたように憶えています。そうした環境で学んでいて、日本での外国=アメリカという固定観念、アメリカがDominateしているというような無意識的な感覚が覆されたのは新鮮でした。アメリカというのは、絶対的な存在ではなく、数ある国の中の一つに過ぎないんです。当たり前のことなのですけれど、アメリカの声だけを必要以上に重点的に聞く必要はないのだな、と。アメリカの大学院にいても他の地域に気を配って、各国からの留学生の違う視点に触れることは大切だと思います。SAISはボローニャや南京にキャンパスがあるので、違う環境で学んでみるというのも良いと思いますよ。そうして視点を変える経験を通して、自分の考え方を相対的に見ることが出来るし、人の考え方も相対的に考えられるようになります。私自身、自分の価値観を作ってゆくのにこれが役に立ってきたと思います。

スペインにいるときに面白かったのが、アメリカだと一番になることがいい、大きいことがいい、というような感覚があると思うのですが、そういうことをアメリカ人の学生が発言すると、欧州人はケラケラ笑うんです。そういう風に見てるんだ、と。これはとても面白かったです。

留学する前から、留学した後にどうしようとそんなに悩む必要はないと思います。留学している間に考えも深まってきます。留学する前にあれこれ思い悩むことはあまり役に立たないかも知れません。もちろん、大きな方向性などはしっかり考える必要はありますが、例えばどんな職業に就きたいか、など細かいことは考えても仕方ありません。いろんな新しい視点、アイデアに触れて、自分の考えも発展してゆくものですから。私は、そんなことを悩まずに、とりあえず飛び出してみた方が良いと思います。

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