2015/12/08

Hiro

HiroさんはSAISのライシャワー東アジア研究所で客員研究員として勤務しています。日本企業において長くキャリアを積んできた他、米国の経営大学院での留学経験があります。シニアな視点から見たSAISにおける学びについてお話を伺いました。

研究室にて。

SAISという学校はどのように目に映っていますか?

SAISという学校は独特なんです。決定的にロケーションが違います。学者を養成する大学院ではありません。SAISは理論を学んで議論をするだけではなく、理論と現実社会の間を埋めてゆく大学院なんです。セミナーなどでいろいろな人、学者だけではなく一線級の実務家を呼んで、現実を議論するんです。理論として学んだものを国際的な課題の解決に取り組みたいという学生にとって、DCで学ぶということは特別です。学問と実践を繋ぐ、そうした構造はむしろビジネススクールに近いと言っても良いと思います。繰り返しますが、ただ本を読んで学ぶだけではなく、政府、国際機関の、今、国際関係が動いているコミュニティの真っただ中に位置するという独自性は、これはものすごく大きいのだと思います。

SAISで学べること、学ぶべきことは何なのでしょうか。

座学で学べる内容自体はすぐに陳腐化してしまうんです。国際政治の理論なんて数年で新しい現実を説明出来なくなります。理論はバックワード・ルッキングなんです。我々はフォワード・ルッキングな思考で現実と対峙しなければなりません。だから、学問をする中身自体には意味が無いんです。SAISの特色である、先ほど述べましたがロケーション、DCは米国の首都というだけではなく、世界の政治の中心なんです。そこに勉強しにくる各国の学生たちと交わることは非常に価値あることなんです。例えば台湾の外交官がいる、インド政府の役人がいる、そんな各国を代表する人々と交わることができる、これはワシントンならではです。彼らはそれぞれの政府が意図を持って送り出す学生です。大きなコストをかけてもワシントンで学ばせたい、そんな選りすぐりが来ています。実はみんな悩んでるんです。日本だけが悩んでいるわけではありません。各国の学生の持つ悩み、政府の持つ悩みは日本人や日本政府のそれとはまた違うんです。そんな核心部分に触れることが出来ます。それで、本当に他者を理解することができるんです。

SAISに来た学生にどのようなことを期待しますか?

繰り返しますが、極論すれば学ぶ内容自体に価値はないんです。むしろ仲間とのコミュニケーション、志を持つ同級生たちとネットワーキングをしっかりと行って欲しいと思います。ネットワーキングというのは薄っぺらいものではなく、お互いを本当に理解する、そんな関係を作って行って下さい。同年代の仲間たちと、国際色豊かな環境で、いろいろな想いを持つ人と交わることができます。CSIS、Brookingsといった、世界をリードするシンクタンクへのアクセスも容易です。学生でもシニアな実務者などの講演を聴き、知り合うことすら出来ます。皆さんが目指すキャリアにおいて成功している人たちと話しに行けるんです。これは世界でキャリアを築いてゆく中で、本当に重要です。大学院で、勉強だけではなく、こんなプラクティカルな活動を若いうちに経験し、体得して、ぜひ今後に活かして欲しいと思います。

過去にも米国に滞在したことがあるんですが、SAISに来る日本人が減っています。これは、ワシントンにおける日本の地位が落ちて来ていることを示しています。例えば貿易摩擦が喧伝されていた頃は、今の中国が占めているポジションに日本があったんです。アメリカも日本人を呼び込んで、我々から学びたがっていました。日本も、貿易摩擦を解決しなければいけない、そのためにはワシントンへ人を送って、何が出来るのか見つけなければいけない。そんなことを背景に、多くの日本人が渡米して、ワシントンで学びました。今、日本人はどれほどワシントンの重要性を認識しているんでしょうか。翻って、ワシントンの人々は日本の重要性もについてどう考えているんでしょうか。これは日本が真剣に考えないといけない、大きな課題です。本当の政治のゲームが起きているのはワシントンなんです。若い皆さん、本当に国際政治を学びたければワシントンに来て下さい。

SAISを目指す方に何か一言お願いします。

日本を飛び出して、日本社会の中で生きてゆく緩さから、120%自己主張と説明責任を伴う外の世界に来て下さい。日本の良さを再認識すると同時に、海外で活躍することの意義を感じて欲しいと思います。どこの大学院でもいいです。日本の中で実力を発揮できることと、海外で揉まれてついた実力というのは全く違います。日本のやり方はでは、よく不言実行が賞賛されますが、これは世界では通用しません。世界では有言実行です。価値観が違うんです。それをわかっていないと、交渉では負けます。自分が何が出来るかを示し、成果を出し、貢献するのが決定的に重要です。国際交渉で、その交渉の中で実力を発揮するのに必要なことは日本では学べません。それを実際に外の世界に出て学んで下さい。

語学力の優先度は低いと思います。むしろ、わかってもらう努力が重要なんです。説得力とでも言いましょうか。理解してもらおうとする努力は伝わるんです。本当の交渉能力は相手との信頼を築けるか、ということに尽きます。人間性、話していて面白いか、そんなことが重要です。そうしたことは場数を踏み、経験することで出来て来ます。英語力は最低限あれば良いと思います。日本人の多くは国際折衝能力において欠けるところがあります。それは英語の上手下手ではなく、多様な考え方を受容することで、相手を説得する、そういう努力が必要です。外交官、国際関係でキャリアを考える人にはワシントンに来て、これを体得して行って下さい。
ライシャワー研究所のあるSAISのRome棟(左手)を眺める。

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