2016/12/18

Nozomi

Nozomiさんは2016年にSAIS修士課程(MA)を終えました。JICAで農業開発プロジェクトの形成、実施に携わった後、SAISへ留学しました。
「貿易理論」コースのクラスメイトと(前列中央がNozomi)

簡単に経歴を教えてください。

元々自然が好きで、大学では農学部に進学しました。農学部で選択した基礎講座で、世界の飢餓と貧困について聞き、貧困とは何かを確かめに夏休みにガーナの最北端に行きました。その地域は、その後渡航禁止になってしまいましたが(苦笑)。それ以来、サブサハラアフリカの食料安全保障に関心を持っています。大学卒業後はJICAに就職し、西アフリカとベトナムの農業開発などに従事しました。

留学のきっかけは?

JICAに就職して担当したプロジェクトの多くは、対象地域の食料増産、住民の生計向上を目指したものでした。サブサハラアフリカという土地柄、貴重な水資源を有効活用するような農業技術の普及やマイクロファイナンスや村落開発など住民参加を支援しました。しかし、プロジェクトが終わると成果が雲散霧消してしまうケースを見聞きすることがあまりに多く、もっと抜本的な仕組みが必要と感じました。

そこで、ODAが発展に貢献したと言われるアジアの経験を学ぶため、ベトナムに赴任しました。ベトナムでは、政府やドナー以上に、外国企業や多国籍企業が食料市場に密接に関わっている状況を目の当たりにしました。ベトナムはその資本、技術力を活かして、豊かな自然条件や過去の公共投資を基に農業大国になったのも事実ですが、その半面、グローバルバリューチェーンに垂直統合され、穀物の商品化を一因として食料価格の急変動に左右されるようになりました。このシステムからは他にも、食料分布の不均衡による飢餓問題の背景を垣間見た気がしました。

話を戻すと、サブサハラアフリカの食料安全保障を改善するには、この国際メカニズムのボトルネックを特定し、アグリビジネスとも国際的に協力していかなくてはならないと考えるに至りました。そのため、食料貿易のルール作りや農業政策議論について大学院で学ぼうと思いました。

SAISに留学してみて印象は?

学びたいことが決まっていたので、シラバスや所属教授の研究内容について調べ、農業分野と政策議論の両方が学べるアメリカの大学院にSAISを含め数校出願しました。出願校に事前に訪問し、研究を指導してもらえそうか教授に相談にのってもらいました。こういう経緯の人はSAISの中では珍しかったと思いますが、私一人ではありませんでした。

ですので、SAISでのアカデミックライフはある程度想定したものでした。ただ、シラバスを読んだだけでは講義の焦点が理解しきれないこともあるので、あとはセメスターが始まってから色々なクラスに出てみて、直接教授の話を聞いて、人柄を見て、最終的に国際森林管理、国際水資源政策、野生生物保全、気候変動と経済発展、比較農業政策、環境・資源経済といった講義を選択しました。

もちろん、SAISは特定の分野に特化した研究大学院ではありません。ワシントンDCという地の利もあり、学問・研究成果を政策立案の実践に活かすことを目指していて、私も農業政策の他にも国際関係論や開発戦略といった学際的アプローチも学びました。特定の研究分野に関心を持ってSAISに来ると、選択したい授業がない、もしくは目当ての講義が開講されないリスクもあると思います。
 

専攻(Energy, Resources and Environment Concentration: ERE)について教えて下さい。

EREでは多岐に亘るトピックを扱い一学年で100名以上が所属する大きな専攻のため、その下にSequenceと呼ばれる分野を十程度設けて、専門性を高める工夫がされています。Agriculture SequenceはEREでも注目されてきている分野ではありますが、それでも私が選択した講義の大半ではクラスメイトは10名以下でした。エネルギーや気候変動分野に関心のある学生が多いようで、気候変動と経済発展の講義ではクラスメイトが30名近くいました。EREのように大きな専攻だと講義が大人数になる傾向はあると思いますが、支援体制が整っていたり、卒業生を多く輩出しているのでネットワーキングにも役立つと思います。

先ほど学際という話をしましたが、EREの教授は技術畑出身でも政策を分析していたり、政府やNGO等からゲストスピーカーを呼ぶことが普通であったり、学生側も色々な経験・関心を持っているので、EREでも必然的に学際的視点を学ぶことになると思います。例えば、国際水資源政策の講義ではグループワークでインダス川を扱ったのですが、私は水文や治水、農業利用といった観点から水資源の管理体制を検討した一方、別のクラスメイトはチベットやカシミールといった地政学的観点からインダス川協定を分析しました。多くの人が影響を受ける政策の立案には、多様な視点、分析が必要と実感しました。
  

Nozomiさんはジャパンクラブの代表を務められたんですよね?

代表は成り行きで決まったのですが(笑)、クラブ活動は良い経験になりました。生徒会が仕切るインターナショナルディナーやハッピーアワーに出店した以外に、新歓交流会、日本語を学ぶ学生の練習のための日本語会話ランチ、映画鑑賞会など要望に合わせて他のクラブメンバーと企画しました。

コアメンバーには、日本人留学生に加えて、ジャパンスタディ(日本専攻)の学生がいました。彼らは過去に日本について学んでいたり、学部で日本に留学していたり、日本のことをよく知っていましたが、大学院で更に日本と自国との政治・経済関係について専門性を深めていました。彼らからは、アメリカに滞在しただけでは自分では気づかなかった日本との違いを教えてもらい、異文化コミュニケーションを明示的に理解することができました。
 

今後のキャリアはどんな風に考えていますか?

大学院で食料問題への処方箋を得るつもりが、食料安全保障にさらに危機感を覚えるようになりました(苦笑)。今後予測される世界的な人口増加や経済成長、農村部の変化の中で、水、土地等の限られた自然資源を持続的に利用していくためには、国益、企業益を超え一丸となって臨んでいくことが不可欠です。食料生産・流通・貿易活動の大半を占める民間セクターが協力し合えれば、インパクトも持続性も高まると思います。

来年からは国連FAOでまさにアフリカのvalue chain developmentを進める予定ですが、現場でのプロジェクトマネジメントの経験を思い出して、良い取り組みを実現、波及させていくための国際ルール、環境作りのために、SAISで学んだ政策議論を発展させていきたいと考えています。修士論文で協力した国際NGOでも、SAIS卒業後に初めて勤務した別の国際機関でも、異なる関心、価値観の混在する国際社会では論理的な土台を基に事業を展開しており、SAISで身につけたアプローチは活かせると感じました。
 

SAISを目指す方に何か一言お願いします。

キャリアチェンジもいいですし、そうでなくてもSAISで学べることがあるようであれば、留学をお勧めします。社会人になると目の前の仕事に追われてしまい、一つのことを追求するのも難しいと思います。コースワークで研究トピックを絞っていき、修士論文のテーマに行きついたことは、過去の経験や自分の関心の棚卸になりました。

また、もし国際機関での勤務を志望される場合は、T字型の専門性を身につける必要があり、大学院の修了証はその保証書でもあります。私も、食料・農業という括りではSAISは大学学部や実務の延長でしたが、SAISで初めて気候変動について本格的に学び、卒業後は天候インデックス農業保険のリサーチに従事しました。

話は変わりますが、SAISにはボローニャキャンパスがあることもありヨーロッパからの留学生も多く、ヨーロッパで就職することも身近に感じられました。私は卒業後はローマに赴任しましたが、そこでもSAISの先輩方に親切にしてもらいました。SAISのネットワークも貴重な財産になります。ぜひ留学に挑戦してください!
ジャパンクラブのメンバー(中央左がNozomi)